投信で損失、個人の半数 金融庁調査の中身を見てみた

金融庁調査

(金融庁HPの調査より)

 

日本経済新聞に、投資信託投信(投信)を保有する個人投資家の半数近くが損失を抱えているとの報道がありました。

日本経済新聞 電子版
2018/7/4 投信で損失、個人の半数 金融庁調査

記事の要点は次のとおりです。
・金融庁が都銀や地銀の計29行を対象に2018年3月末時点の運用損益を調べた。
・ここ数年は世界的に株価が堅調に推移しており、本来なら高い収益を得ているはずが、損失を抱える顧客が46%と半分近くに達した。
・原因は、銀行は自らの手数料収入を優先し、個人の短期売買を助長していること。「毎月分配型」投信も問題で、資産形成にそぐわない。

かねてから言われている通り、金融機関が顧客利益を無視して、自らの手数料稼ぎを優先している実態が見えてきます。

この調査では、都銀と地銀が対象ですが、窓口のアドバイザー?がいないネット証券で同じ調査をやれば、違う結果になるのではないかと想像します。ここ数年の好調なマーケット環境で半分近くの顧客が損失を抱えている、なんてことにはならないでしょう。

銀行窓口でのアドバイスが、いかに顧客のリターンを削っているか。
投信を短期的に買い替えを勧めることにより、その都度銀行が数%の手数料を取っていく。
株式の期待リターンは年5%とかなのに、そんなに手数料を払っていたら、顧客は儲かるわけがありません。

金融庁の調査結果

この日経新聞の記事になった金融庁の調査結果について、見てみることにします。

金融庁HP

投資信託の販売会社における比較可能な共通KPIについて

(別紙2)投資信託の販売会社における比較可能な共通KPIを用いた分析
https://www.fsa.go.jp/news/30/sonota/20180629-3/03.pdf

がその調査結果です。

 

(分析1)

販売会社がどれくらいのリターンを個々の顧客に提供しているかについて、投資信託を保有している顧客の基準日時点の運用損益(手数料控除後)を算出した運用損益別顧客比率を見ると、主要行等9行・地域銀行20行合算ベースで、半数強の顧客の運用損益率がプラスである一方、35%の顧客が-10%以上0%未満であるなど、半数弱の顧客の運用損益率がマイナス。

35%の顧客の運用損益がが-10%以上0%未満で、グラフを見ると46%の顧客が0%未満で損失を出していると、日経新聞の記事のとおり。
上に書きましたが、銀行・地銀以外では、どういう結果になるのかも知りたいところです。

 

(分析2)

各販売会社について、運用損益率が0以上の顧客の割合をみると、7割台の販売会社がある一方で、3割台に留まる販売会社もある。また、顧客の投資信託の平均保有期間が長くなるにつれ、各販売会社の運用損益率0以上の顧客割合が高くなる傾向。

各販売会社というのは、銀行・地銀のことですね。

運用損益率が0以上、つまり利益が出ている顧客の割合が、銀行・地銀によってバラツキがあるようです。
調査した銀行・地銀の全体では、半数弱の顧客が損失を抱えているということでしたが、顧客の7割台が利益を出している銀行・地銀があれば、顧客の3割台しか利益を出していない銀行・地銀もあります。

もちろん銀行・地銀により、扱っている投資信託のラインナップは違うので、顧客の運用成績が変わってくるということもあるのでしょう。

しかし、顧客の投資信託の平均保有期間が長いほど、運用損益率0以上の顧客が多くなるという指摘。

資料のグラフを見ると、銀行・地銀によって、顧客の投資信託の平均保有期間が違うことがわかります。顧客の平均保有期間が2年未満の銀行・地銀もあれば、顧客の平均保有期間が4年を超える銀行・地銀もあります。
そして、平均保有期間が長いほど運用損益0以上の顧客が多くなるという、相関関係。

銀行・地銀それぞれの顧客で平均保有期間がこれだけ違う原因は、どれだけ投資信託の乗り換えを勧めるかの販売姿勢なんだと思います。
銀行・地銀それぞれの販売姿勢で、顧客の利益が大きく変わってくるということですね。

 

(分析3)

さらに、各販売会社について、平均運用損益率を試算(※)すると、10%以上の販売会社がある一方で、0%未満に留まる販売会社もある。

分析2では、運用損益率が0以上の顧客の割合、つまり損をしていない顧客の割合の分析でしたが、それぞれの銀行・地銀の顧客が平均でどれだけ儲かっているかの分析です。

グラフを見ると、やはり銀行・地銀によりバラツキがあります。

ひとつの銀行は、平均運用損益率が0%未満なので、その銀行の顧客は全体では利益が出ていないということですね。この好調なマーケット環境で…。

 

(分析4)

各販売会社の投資信託預り残高上位20銘柄のうち設定後5年以上の投資信託について、コスト・リターンを検証したところ、両者に明瞭な関係が認められず、コストに見合ったリターンは必ずしも実現していない。

各販売会社の投資信託預かり残高上位20銘柄というのは、それぞれの銀行・地銀でよく売れている=営業に力を入れている投資信託という解釈でいいのかな?

よく売れている投資信託のコスト(ここでは販売手数料と信託報酬の合計)とリターンについては、相関は見られないとのことです。
これはよく言われることで、高いコストを払ったからといって、コストに見合った高いリターンが得られるとは限りません。リターンは事前にはわからないので、それならば確実に取られるコストについては、低く抑えるのが合理的です。

グラフを見ると、各銀行・地銀でよく売れている投資信託上位20銘柄の平均コストは、1.7%~2.2%の範囲のようです。
はっきり言って高いです。

ネット証券でインデックスファンドを買うと資産クラスにもよりますが、0.2%を切るような投資信託もあります。

具体的な金額で見てみると、例えば退職金をもらって1,000万円を運用しようとして、コストが2.0%の投資信託を買うと年間で20万円の手数料がとられることになりますが、コストが0.2%の投資信託だと年間2万円の手数料です。

 

(分析5)

リスク・リターンは、リスクの上昇に伴いリターンも一定程度上昇する傾向が見られたが、シャープレシオ(リターン/リスク)で見ると、0.8台の販売会社がある一方で、0.3台に留まる販売会社もある。

リスクとリターンには相関がみられるというのは、自然かなと思います。

シャープレシオが、ひとつの地銀だけ0.8台なのですが、原因はこの資料だけではわかりません。
その地銀だけ、よく売れている投資信託の上位20銘柄の資産クラスに偏りがあるとか、上位20銘柄といいつつ、ラインナップが数銘柄で偏りがあるとか、ですかねえ。

ここで注目したのは、グラフのリターンです。
よく売れている投資信託20銘柄の平均リターンは、すべての銀行・地銀でプラスです。
どの銀行・地銀でもよく売れている投資信託上位20銘柄のリターンは年3%~8%の間で、平均すると年5%ほどなると思います。

銀行で売っている投資信託はコストが高いという指摘をしましたが、それでもこの5年は平均で年5%ほどプラスのリターンになっているということです。それだけ好調なマーケット環境でした。

余計な売り買いをせずに、この投資信託を5年間ずっと持ち続けていれば、5年間で27%ほどプラスのリターンになっていたはずです。
(ここでのリターンは過去5年のトータルリターンの年率換算なので、1.055=1.27)

それなのに、それを買っている顧客の半数弱が儲かっていない。

やはり銀行の販売姿勢に問題があるのだと思います。

 

まとめ

金融庁の調査から、銀行・地銀の投資信託の販売状況を見てみました。

・銀行・地銀で売っている投資信託はコストが高い
・コストは高いけど、この5年のマーケット環境では、プラスのリターンは出ている
・それなのに、それを買っている顧客の半分弱は損失を出している
・原因は、顧客に短期売買を繰り返させる銀行・地銀の販売姿勢にある

結論としては、銀行・地銀は、資産形成には向いていない、ということですね。