税理士が軽減税率に反対する理由と政治家の意見
2019年10月から消費税率の10%への引き上げと軽減税率の導入が予定されています。
この秋、総理から今回は延期はせずに予定通り実施する旨の表明がありました。
一方、税理士は軽減税率にずっと反対しています。
11月6日に東京税理士政治連盟主催のフォーラムで、政治家を招いてパネルディスカッションが行われ、政治家の意見を聞いてきました。
当記事では、税理士が軽減税率に反対している理由と、政治家の意見を紹介します。
税理士が軽減税率に反対する理由
1.軽減税率導入に伴い税収が減少する
そもそも消費税率の引き上げは、税収が足りないから行うものです。
軽減税率を導入すると、税率を引き上げても、思っていたように税収が確保できません。
軽減税率を導入することにより、将来的に本税(10%の部分)をさらに引き上げる必要性が増すことになります。
2.線引きが難しいこと
軽減税率はお酒や外食を除く飲食料品を対象とするということですが、線引きが難しいです。
例えば、マクドナルドなどで、店内で食べる場合は外食で10%だけど、テイクアウトは外食ではないので軽減税率の対象となったり、コンビニのイートインはどうなるなど、さまざまな場面が想定されます。
また、テイクアウトすると言って軽減税率で購入したものを店内で食べたらどうなるかなど、ややこしいことになります。
さらに、軽減税率の対象に食料品以外として新聞が入っていますが、今後、さまざまな業界が政治家に対して、自分たちも軽減税率の対象に加えてくれと陳情合戦が始まると想定されます。
実際、軽減税率を導入しているヨーロッパ各国で繰り広げられている光景ですが、こうした陳情合戦が繰り広げられるのも軽減税率があるためです。
3.低所得者対策であるにもかかわらず、高所得者により多くの恩恵が及ぶこと
軽減税率は、低所得者対策で導入するものです。
今現在、暮らしが厳しい方が、消費税引き上げでさらに苦しくならないようというものです。
しかし、一般に低所得者より高所得者の方が食料品にかける金額が多いため、軽減税率による税の軽減効果は、高所得者の方が大きくなります。低所得者対策であるはずの軽減税率により恩恵を受けるのは、低所得者よりも高所得者の方が大きいのです。
また、高所得者の税負担まで軽くなることになり、やはり税収が足らないということにつながり、本税(10%部分)をさらに引き上げる必要性が増すことになります。
4.事業者の事務負担が増加する
軽減税率を導入することにより、事業者にとっては事務負担が増えます。
帳簿や請求書等に、ひとつひとつの取引が軽減税率の対象かどうかを区分して記載することになります。
事業をやっている方にとって、この負担はバカにならないです。
軽減税率は低所得者対策として非効率
以上、見てきたように、軽減税率は低所得者対策で導入されるのですが、低所得者よりも高所得者が恩恵をうけたり、制度が複雑化するなど、低所得者対策として非効率な制度です。
そもそも消費税というのは、低所得者にとっては厳しい税金です。
消費税は高所得者であっても低所得者であっても税率は同じです。
一般に低所得者の方が、収入に占める食料品をはじめ生活必需品購入の割合が大きくなるため、高所得者よりも収入に対する消費税の負担率は大きくなります。これを逆進性といいます。
消費税という税は、構造的に、低所得者ほど税負担が大きい逆進性という性質を持っている税なのです。
そのため、低所得者対策を消費税という税の中でやろうして、軽減税率を導入しても、どうしても効率が悪い制度となってしまいます。
このことは付加価値税(消費税)の軽減税率を導入しているヨーロッパで、すでに言われていることです。世界での軽減税率の評価は次のようなものです。
世界各国で採用されている軽減税率は低所得者対策として極めて非効率的制度であることが確認された(2014年OECD VATフォーラム)
VAT(ヨーロッパの付加価値税(日本の消費税に相当する税))を機能不全に陥らせた元凶は軽減税率制度であり、この制度は政治家が低所得者層にコミットしていることを示す政治的パフォーマンスで、採用すべき合理的理由は一切ない(2011年マーリーズ・レビュー)
すでに世界的に非効率と評価が決まっている軽減税率を、日本は導入しようとしているわけですね…。
給付付き税額控除の方が低所得者対策として優れている
低所得者対策を消費税という仕組みの中で行うのは非効率だというのは、上に見たとおりです。
低所得者対策は、消費税と切り離して行う方が効率的にできます。
その一つの方法が「給付付き税額控除」です。
給付付き税額控除は、消費税の負担増分を所得税で調整する仕組みで、次のようなものです。
例)仮に消費税の税率アップにより、低所得者の税負担が年間で1万円増えると想定した場合。
1万円を所得税の納税額から控除する。
所得税の納税額が1万円より少ない人については、その分を給付を受ける。
(たとえば、所得税が4,000円の人は、4,000円-10,000円=△6,000円で、6,000円給付を受ける)
給付付き税額控除は、このような仕組みであるため、高所得者の方がより恩恵を受けるということはありません。
また、軽減税率は消費税が複雑化し事務負担が増えたりするのに比べて、給付付き税額控除は比較的仕組みがシンプルです。
政治家の意見は
このような軽減税率が導入されることになったのは、与党である公明党が軽減税率を強く推していたからです。
同じ与党の自民党は、軽減税率はやりたくないけど、公明党との関係上、軽減税率導入が決まったという経緯があります。
そんな経緯の中、冒頭の11月6日のパネルディスカッションを見てきました。
出席議員は東京都選出の衆議院議員で、次の通りでした。
・高木陽介(公明党)
・長島昭久(未来日本)
・小倉將信(自民党)
・鈴木隼人(自民党)
議論の流れは、野党の長島氏が軽減税率に反対して、与党の残り3名が軽減税率を擁護する予想通りの展開でした。
与党の3名でも、自民党の二人は若手ということもあるのか、ベテランの高木氏がほぼ発言をしていました。
展開は予想通りでしたが、意外だったのは、軽減税率が非効率な制度であるということを、全員が認めていたことです。
公明党の高木氏も含めて全員が、給付付き税額控除の方が、低所得者対策として有効だということを認めていました。
そしたらどうして軽減税率を推すのかということですが、高木氏いわく「痛税感」だそうです。
あとで減税されたり、現金が戻ってくるとしても、毎日の食品の買い物のつど、2%高い消費税を払うことになる痛みが良くないそうです。だから軽減税率なんだと。
パネルディスカッションの議論はこんな感じでした。
パネルディスカッションを聞いての感想
たしかに毎日買い物をする主婦にとっては、買い物での支払額が少なくなる軽減税率の方がウケがいいのかもしれません。
でも、政治家というのは、みんなの代表でありリーダーです。
軽減税率より給付付き税額控除の方が合理的だとわかっているのなら、それをきちんと説明して、国民を正しいと思う方向へ導いていくべきです。
国民だってバカじゃありません。軽減税率より給付付き税額控除の方が合理的だという説明がされれば、納得するのではないでしょうか。
それをせずに、単にウケがいい政策をすすめるのは、政治家としてうーんだし、国民をバカにしてるんだと思いました。
なお、パネルディスカッションが始まる前に、挨拶だけで登場した自民党の石原伸晃氏は、軽減税率については「友党との関係で」とだけ発言されておりました。